音楽について

ジョン・ケージ In a Landscape ある風景の中で

John Cage and Merce Cunningham

 ケージの「In a Landscape ある風景の中で」はモダン・ダンスのために書かれた。音楽と舞踊の関係についてケージは、どちらかが優位に立つのではなく、先にどちらかが作られているのでもなく、対等な立場で同時に一つの作品を作る、という理想を持っていた。振付家マース・カニングハムと40年以上にわたってコラボレーションをし、敬意と芸術を分かち合った彼らの友情はケージの死まで続いた。ケージはストラヴィンスキーとバランシンの2人のコラボレーションへの疑問を持っており(ケージ曰く「2本の脚を10本の指のように感じさせようとする不可能な欲求」)、また、コンセプトも舞台も出来上がっているところへ作曲家が音楽を付けるという当時のモダンダンスのあり方も彼の求めるものではなかった。シェーンベルクの下で学んだ直後で楽曲のフォームに興味を持っていたケージは、カミングハムとの仕事を始めるにあたってまず構造、小節数、拍、テンポを共有した。1948年に書かれた「In a Landscape」の構造は、5+7+3の15小節のグループが5回、7回、3回と繰り返されるというもので、全曲は225小節から成る。4分の3拍子、4分音符がメトロノーム80のテンポなので1小節は2,25秒。作曲家と振付家の間でこれらの厳格なフォームが共有され、同時に別の場所で一定期間干渉されることなく仕事をし、その後リハーサルにおいて擦り合わせてゆく。2人の芸術家の間にお互いを尊重し信頼する関係があってこそ成り立つ手法であろう。

 エピソードをひとつご紹介しておこう。1959年、ケージはルチアーノ・ベリオに招聘されミラノに滞在し、国営放送RAIにベリオが設立した電子音楽スタジオに携わり、ウンベルト・エーコ、ブルーノ・マデルナ、シルヴァーノ・ブッソッティ、ペギー・グッゲンハイムらと交流した。滞在中に、当時RAIで放送されていたクイズ番組に回答者としてテレビ出演し、彼の作品(“Amores”, “Water walk” と “Sounds of Venice”)を演奏した。貴重な映像は失われてしまったが、5回戦まで勝ち残ったと言われている。温厚な性格、独特のユーモアのセンスと並んでキノコ採集の趣味なども披露したアメリカを代表する現代作曲家の実験的な音楽がクイズ番組の視聴者に理解されなかったことは想像に難くない。国民的コメディアンの司会者(マイク・ボンジョルノ)は番組の最後で「あなたにはぜひイタリアに残っていただきたいが、あなたの曲にはアメリカに帰っていただいて構わない」とコメントしたという。Water walkの動画を貼り付けておく。

5月の日本でのコンサート情報

2023年5月14日札幌 ザ・ルーテルホール ピアノリサイタル

2023年5月21日大阪 ザ・フェニックスホール ピアノリサイタル

2023年5月27日東京 サントリーホール・ブルーローズ リサイタル

演奏曲目
ベートーヴェン作曲
ピアノソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2「テンペスト」
ブラームス作曲
ピアノのための6つの小品 Op.118
シェーンベルク作曲
6つのピアノ小品 Op.19
リスト作曲
超絶技巧練習曲集第 11番「タベの調べ」
パガニーニ大練習曲第3番「ラ・カンパネッラ」
愛の夢-3つのノクターン
ワーグナー作曲リスト編曲
イゾルデの愛の死