音楽音楽について

ベートーヴェンのダンパーペダル 1月光

ベートーヴェンのピアノ作品におけるダンパーペダル(右のペダル)について、いくつかの作品を取り上げ考察してみたい。

まずはピアノソナタ第14番嬰ハ短調作品27の2、俗称「月光」の第1楽章。
この曲の冒頭にベートーヴェンは、

Si deve suonare tutto questo pezzo delicatamente e senza sordino

と書いた。

ピアノソナタ第14番 Op.27-2 初版 ペトルッチ・ミュージック・ライブラリー

これは「この曲全曲をデリケートに、ソルディーノを使わないで弾きなさい」と言うことで、ここでのセンツァ ソルディーノという表現はベートーヴェンならではのものだと思うが、イタリア語のsordoは今の日常会話では耳の聞こえない人のこと(差別表現であまり使われない)、あるいは音が小さい状態のことで、例えば弦楽器の弱音器のことはソルディーナと言います。ベートーヴェンの意図したことは、弦をダンパーで止めない、すなわち右のペダルを使って演奏する、ということだと言われています。

全曲を右のペダルを使って演奏する、というのはどういうことでしょうか。曲の頭で踏んだペダルを全曲に渡って一度も上げずに踏み続けるということでしょうか?先日のポストでも書いたように、ピアノ協奏曲第3番の第2楽章の冒頭についてスコダは

第4、6、10小節などにある “con sordino” の指示はベートーヴェンによる。チェルニーによるとベートーヴェンはこの協奏曲初演の際にペダルを踏み変えなかったが、状況に応じてペダルを踏み変えることも念頭に置いていたことがうかがえる。
パウル・バドゥーラ・スコダ の『ベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲の楽譜 および演奏に関する諸問題」今井顕訳

と書いており、チェルニーによると第4、6、10小節もペダルを踏み替えなかったということのようである。

であれば月光も混沌としたペダルの響きの中で弾かれる、ということもあり得るのかもしれない。
例えばシフ:

この響きが求められているのだ!というほどの強い説得力をまだ私は感じない。まだ、と書いたのは、私はいまだに模索中なので、もしかしたら結局シフが正しかった、と将来思う可能性もゼロではないからである。例えばテンポがもっとゆっくりであったらペダルを踏み続けても大丈夫なのかもしれないとも思うが、この曲は2分の2拍子。あまりにもゆっくりすると4分の4にしか聴こえなくなってしまう恐れもある。

月光の第1楽章は全曲に渡ってペダルを絶えず踏み替えながら使う、というチェルニーの説明をどこかで読んだような朧げな記憶も実はある。一般的にもそう弾かれる。
僭越ながら私の演奏もご紹介しておこう:

もちろん私の演奏がシフの演奏よりも説得力があるというつもりはない。多くの点に自分でも疑問がないわけではない。この動画は2021年のものだが、もしかしたら明日にはペダルを踏み換えずに一つのペダルを踏みっぱなしで演奏するかもしれない。

全曲に渡ってペダルを踏み変えずに一つのペダルで弾き続けるという指示のある作品もあります。例えばジョン・ケージの「ある風景の中で In a Landscape」。この曲にはダンパーペダルとソフトペダルをはじめから最後まで踏み続ける指示がある。

脱線してしまった。次はテンペストのペダルについて書いてみようと思う。

5月の日本でのコンサート情報

2023年5月14日札幌 ザ・ルーテルホール ピアノリサイタル

2023年5月21日大阪 ザ・フェニックスホール ピアノリサイタル

2023年5月27日東京 サントリーホール・ブルーローズ リサイタル

演奏曲目
ベートーヴェン作曲
ピアノソナタ第17番 ニ短調 Op.31-2「テンペスト」
ブラームス作曲
ピアノのための6つの小品 Op.118
シェーンベルク作曲
6つのピアノ小品 Op.19
リスト作曲
超絶技巧練習曲集第 11番「タベの調べ」
パガニーニ大練習曲第3番「ラ・カンパネッラ」
愛の夢-3つのノクターン
ワーグナー作曲リスト編曲
イゾルデの愛の死